bunty's blog

ググったこととか勉強したことのメモ

「残像に口紅を」を読んだ

世界から文字を1つずつ削除していったらどうなるかという虚構の話。 この小説の主人公が小説家で、この設定の虚構の小説を書くために、この虚構の世界で生活をする。 言葉が消えるだけではなく、その概念が消えてしまう。 例えば「ぶ」という文字が消えたら、その言葉を発せないだけではなく、ブログやぶどうといった存在もこの世界から消えてしまうので、ただ会話に困るだけではなく、実際の世界にも変化がある。

「あ」が消えると、「愛」も「あなた」もなくなった。ひとつ、またひとつと言葉が失われてゆく世界で、執筆し、飲食し、交情する小説家。筒井康隆、究極の実験的長篇。

小説の中でも何回も虚構という言葉が出てくるので。

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読んでどうだったか

この本を読む前は、てっきり言葉がなくなっていくにつれて、言葉はすごく大事なんだなと思うのかと思っていた。 ただ中盤の方までは、どちらかというと言葉がなくなっても、少しまわりくどくはなっても会話はできるなと思ったし、特定の言葉がなくてもなんとかなる。 特定の単語を含めずに穴の空いた文章でも大体言いたいことは推測できてしまうので、思ったよりも人間って適当なんだなと思った。

言葉が少ない中で話をするということは、理解することを相手の知識や想像力に任せていることになるのだと思う。おそらくこういうことを言いたいのだろうと。 自分が伝えたいことを正しい文章で伝えないと、相手の想像で勝手に埋められてしまい、ちゃんと伝わらない。

適切な言葉がなくなるとどうなるか

確かに言葉がなくなっても、近しい意味の言葉はたくさんある。ただ、語尾が変わるだけで印象はかなり変わる。 同じ文章を伝えるにしても、どんな言葉を使うのかによって、その人がどんな人に見えるのかが大きく変わった。

主人公は作家なので語彙が豊富だったため、比較的後半になっても会話が成立していた。 その他の人はうまく話せなくなっていたりもして、適切な言葉が使えないとそれを表現ために態度がかわってくる。 言葉が失われることによって必ずしもコミュニケーションが取れなくなる訳ではないが、使う言葉が変わるだけで、人が変わってしまうようだった

この小説の世界では選べる言葉がなくなっていく。 でも、ちょっとした解釈の違いで炎上することも多い世の中を見れば、言葉を選ぶことの重要性は大きくなっていると思う。 これだけ選んで使えるのだから、どんな言葉を使うのかはちゃんと選ぼう。

おわりに

こんな一節があった。

「君は、ただのことばに感情移入できるかい。たいていの人は、そのことばに感情を動かされるんじゃなくて、そのことばが示しているイメージに感情を動かされるものだがね。抽象的なことばは別としてだが」

タイトルの「残像に口紅を」は、娘が消えてしまった際に一度で良いから化粧をしている姿を見たかったと思うところから来ている。 かすかに残っている娘のイメージに、主人公が口紅をしてあげる。 人は失った時に初めてその価値に気がつくということを、「言葉」で表現しているのがこの小説なのだと思った。